もういいからお前ら遊んでないで仕事してくれよと言い掛け、俺は。
フッ、と、侮蔑の鼻息を押し出すジュリオを見て固まった。……そんな顔すんだな、お前……
ジュリオは視線を逸らしつつ、微妙に震える声で言った。
「イヴァン―――器用貧乏って言葉、知っているか……?」
「な―――んだとテメエ!? どーいう意味だコラ!」
こいつにも愛車同様スーパーチャージャーが仕込まれてんじゃねーかという勢いでイヴァンが沸騰する。ジュリオは虚ろな微笑を浮かべつつかぶりを振った。
「そこそこの規模の商売をして、喧嘩もそれなり、ネタでトライアングルを渡されてもあんまり面白くない感じに活躍できてしまう―――そして素人童貞のことを指す言葉だ」
「ふ、ふざけんなァアア! 素人童貞じゃねえって言ってんだろーが!!」
つっこむべきはソコじゃねーよ。
そう言ってやりたいような、どうでもいいような。こいつらもしかして仲良いのだろうかとすら思える。なんだかふたりとも生き生きしていた。お願いだからその活力を、今目の前にある危機――書類だ――との戦いに使ってはくれないだろうか。
いったいどこで止めたらいいのか見失った俺を、ジュリオがさわやかな笑みで振り返った。
「ジャンさん、ジャンさんは二股浮気男もヘタレヤモメも素人童貞もイヤですよね」
「ジュリオ……お前普段そんなふうに……」
第三位が怖い……
「てめえジュリオ、あと六年で魔法使いのクセしやがって―――」
「俺はもう、魔法使いにはなれない……残念、だ……」
「思ってねーだろ! っつか、それだったら俺ももう素人童貞じゃねえよ!」
「もう、ということは、前まで、は」
「違えええええ! 揚げ足とんな!」
イヴァンが投げつけた書類の束を、最小限の動きでジュリオが避ける。オイふざけんな仕事してください。
「…………ん?」
―――今のどーいう意味だ。
ふとよぎった疑問は、怒涛のようなやり取りにあっという間に押し流された。
「考えても、みろ……元・素人童貞と、元・神聖童帝の、デスクワークにおけるスペックまで同じ、だったら……」
「関係ねええええ! こだわるなウゼエ! テメェのそれは書類が読めない言い訳だろーが!?」
「強くて、書類まで読めたら……可愛く、ない……」
「野郎、本音が出やがったな!!?」