ボスの嘆きを超特急で置き去り、話題はきりもみ回転しながら逸れていく。
「そもそもルキーノ、お前は教育係って名目で好き勝手しすぎだ。ジャンはお前だけのものか?」
「ミシシッピは長いのか? 譲歩はしてるはずだ」
「譲歩っていうのは……まさか、いつも書類の決裁のために、夜にほんの少しだけ本部に連れてくることか」
「そのままお前が連れ帰るのを見過ごすのも含めて、だな」
「それは半々だから譲歩とは言わん」
 ウンそーですよね。と思い。
(―――なんだって?)
 その内容に引っかかりを覚えた俺の肩を、ルキーノががしっと引き寄せた。
「半々なら文句ないだろう。それとも、そっちもローテーション組んで予定表作っとかないとならねえか?」
「ご免被る。でないと俺の受け持ちじゃない日に、デイバン中のキャディラックを闇討ちしそうだ」
 いや、待て待て待て。何だ、何の話だ?
 と、制止する間もなく、バランスを崩して倒れこんだ俺の腰あたりをベルナルドが抱えて引き戻す。
「可哀想に、ハニーはこんな自分勝手な男にレイプされてるのかい? 心配だ……」
「ベルナルド……前から思ってたんだが、お前結構陰湿だろう……おい、いいのかジャン、こんなねちっこい男で」
 再びルキーノのほうに引っ張られそうになった体を、反対側からベルナルドが抱え込んで押しとどめる。
 フットボールみたいにふたりの間を行き来させられて、何か言うべきだとはわかるが言葉が出てこない。この会話はなんかおかしい。ありえないことのような気がする。ただ、何がおかしいのかがわからない。よくできただまし絵のように、話は自然に展開していく。
 ちくちくとした応酬を繰り返すふたりを見上げて、俺は呟いた。
「なんか……おかしくねえ?」