「――キシシシ、し!」
もはや聞きなれた、嫌な笑いが響き渡った。
あのデブ卵。いなくなったはずのあの化け物が、再び、壁のように立ちはだかった。
化け物は癇に障る声でわめく。
「許さナイ! 許セなイ! 重量オーバー、通せナイ!」
「んだと……」
何言ってやがる。その巨体を前に足が止まる。腐れ卵は笑ってるんだか泣いてるんだかわからない声で、げたげたと続けた。
「おまえモ! 俺モ! 到底ぜんぶハ運べなイ!」
「な――ジャン、あれは――」
呆然と立ち尽くす野郎どもの前に出て、俺は化け物に怒鳴り返した。
「うるっせぇ、てめえは俺に負けたんだよ、すっこんでろ! 中身ぶちまけられてーのか!?」
化け物はまるで怯まない。大きな殻をぐらぐら揺すり、凶悪な牙をがちがち鳴らし、そいつは騒ぎ立てる。
「し、シシ、しし! 選べ、エラべ――ここか、向こうか! 一ツか、ぜんぶか!」
「はあ――? わけわかん……」
「無力で、ヒリキなジャンカルロ! オマエにぜんぶは運べナい! 俺にぜんぶは喰いきれなイ! 選べ、選べ、エラべ!」
化け物が体を揺らすたび、剥がれ落ちた殻が瓦礫になって降り注ぐ。舞い上がる粉塵ととどろく轟音の中で、イヴァンが呻いた。
「ファック、なんだってんだ――」
「ジャンさん、これはいったい……」
ジュリオの戸惑いに、歯噛みする。こいつは化け物で、偽者で、俺で。
なんて答えたらいいか迷ったそこへ、ベルナルドの鋭い声が割り込んだ。
「まずい。もう、後ろが――」
振り返る。殻の瓦礫が積み重なる足元。ベルナルドが見ているのはその先だった。
真っ暗な奈落が、降ってくる殻を底なしに飲み込んでいる。
暗闇は見る間に広がっていく。俺たちの足元まで来るのに、そう時間はかからないだろう。
「てめえ、どけ、この……!」
「許さなイ! 許せナイ――持っていけるのハおまえのモノだけ、欲張りラッキードッグ!」
「――ジャン。こいつは何を言ってる?」
刺すようなルキーノの言葉に、なぜか体がこわばった。
「知、らねえよ……」
「だが、こいつは――おまえが『知ってる』と思ってるんじゃないのか。選べってのは……」
「んなこと言ったって! わかんねえもんはわかんねえよ! こんなバケモンの言うこと――」
「キシシシシシ、しし、シシシ!」
卵が、ないた。
それまでずっと笑っていた卵が、ないていた。
「思い出! 取り戻した? 喰った? 喰われ、タ?」
「はああ?」
「くった、くった、つくった! 思イ出セ!」
ぐらぐらぐらぐら、卵が揺れる。
まずい。もう、足元が――