「顧問、息子さんを僕にく―――」
「なあ親父あの話やっぱりどうにか断れねえかなあ!!!」
 真顔でしかないベルナルドの顎を手のひらで力いっぱい押しのけ、叫ぶ。
 その剣幕にぽかんとしている親父をひとまず放置して、俺は高い位置にある首根っこを引っつかんだ。
「あ・ん・た・は、いきなり何カミングアウトしてやがる!?」
「大丈夫、さすがに顧問だって本気にはしない。交渉を円滑に進めるための軽いジャブみたいなものさ」
「どこがジャブだ思いっきりミゾオチ入ってたじゃねえか! 冗談になってねえ!」
「冗談なもんか、顧問は本気にしないだろうが、俺は本気だ」
「本気より正気に戻れ! 何のために普段苦労してんだよ!」
「それはもちろん、俺とジャンの明るい家族計画のために」
「今ファミーリアっつったよな、一家だよな、CR:5のことでいいんだよな!?」
「おーい息子たちー……俺はちくっと疎外感だぞー……」
 息だけでごしょごしょ言い合っていた俺たちは、その言葉でようやっとアレッサンドロ親父を振り返った。
 胡乱げにこっちを見ていた親父に、先手を打つとばかりにベルナルドが口を開く。
「実は先ほどジャンカルロから相談を受けまして。顧問、この話はお断りさせていただけませんか」
 おお、単刀直入。俺と同じこと言ってるはずなのに、まともっぽく聞こえるのはなんでだ。
「お前も反対か、ベルナルド。―――理由を聞こうか」
「縁談が地盤強化に有効であるのはわかりますが、CR:5の財力、コネクションの基盤が確固たるものになりつつある今、我々にそのような戦略は必要ない。下手に縁故を結べば、別のところからの反発を食らう可能性があります。現状においては、そのデメリットのほうが大きい」
 いつもの冷静な口調、論理的な説得が展開されていく。正気を疑われた男の口ぶりじゃねーな。
「そんな状況下で、ジャンに結婚を強要するのは理にかないませんし、あんまりです。彼にも事情があるでしょう。……もしかしたらもう、心に決めた人がいるかもしれない」
 ……なんだそのちょっと嬉し恥ずかしな感じの言い方は。冷静とか言って損した。
「でもなあ。こいつ全っ然、女っ気ないし。遊びすら付き合わんし」
「そこは先代の手前、気を張っているんです。顧問のご存じないところで、人目を忍ぶ逢引を繰り返しているのかもしれない」
 なにっ!? と親父は目をむいたが、俺だってぎょっとした。なんでそんなギリギリなこと言うんだよ!
「お前そんな羨ましい―――いやでも、週末すら仕事してるじゃないか。書類が溜まってるとか言って」
「限られた時間と空間でこそ、語らいは濃密になるもの、だと思いますが」
「ばかな……連れ込んでるとでも言うのか、ずるい許せん……ん? だが、こいつが詰めてる仕事場には護衛がいるだろう。こっそり連れ込むってわけにはいかないんじゃないか」
「そこはもちろん、計り知れない苦労と工夫があるはずです」
「くそ、抜け駆けとは卑怯な―――あ。ベルナルド、仕事場にはお前も詰めてるんじゃなかったのか」
「ええ、無論」
「やっぱりな、こいつに女なんぞいるわけがない。からかうなよベルナルド」
 ……………………天国のマンマ、釘だらけのベッドの上に眠ったらこんな気持ちかな…………? テレサマンマ、いくら寄付したら主はこの状況から俺を救ってくれるんだ?
 ズレてんだか噛み合ってんだかわからない会話に、俺の毛根まで多大なダメージを食らった気がする。