三人の男の死体の向こう、メルセデスの傍らで、イヴァンは沈黙している。俺は銃を下ろし、少しだけ近づいた。
「会いたかったぜ、イヴァン。……この一年、ずっとな」
 イヴァンは三人の部下を見下ろし、一瞬だけ目の奥に烈火を宿らせる。地を這うような声が月のない夜に沈んだ。
「……テメエだろうとは、思ったぜ、ジャン。ちょうど一年前だったからな」
 秋風が火照った身体を冷やしていく。一年と少し前、デイバンに帰ってくる直前にも、たぶんこんな肌寒さを覚えた。―――あのとき俺は、どうしてこいつに気を許したのか。今となってはもうわからない。
 攣れたような感覚の残る腹を撫でさする。
「傷が治るのに半年、出入りの仕方覚えんのに半年かかった。……おかしいよなあ。出入りの仕方なんて覚えなくて良かった。途中で気づいたんだ―――俺、死なねえんだって」
 イヴァンは何も言わない。俺は十分に高揚しているのを自覚しながら、続けた。
「一年前のあの日、みんなが真っ赤になって死んじまったあのとき、俺だけ生き残っちま(・・・・・・・・・)った(・・)。それから何したって死なねえんだ。前からラッキーだって言われてたけどよ、この悪運は異常だ。たぶんあのとき、なんか壊れちまったんじゃねえかな」
 妙に明るく、はしゃいだ俺の声とは対照的に、イヴァンは沈殿したヘドロのように重く、黒い声を出した。
「……なら、あいつらを殺さないで直接カチ込んできやがれ。三日もこそこそ付け回しやがって」
「ハッ、気づいてたのかよ―――お前のことだ、下手に突っ込んでって取り逃したら、姿隠されちまう。逆に、自分の組もGDも狙われてるってわかったら、確実に雲隠れするよな。誰も信用してねえお前は、ろくすっぽ護衛もつけねえ。―――俺はな、イヴァン。邪魔が入らないとこで……」
 拳銃を上げる。イヴァンが腰を落とす。
 狙いを定めてから、俺は言った。
仲直り(・・・)がしたかったんだよ」